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inaya



name : inaya

place : Awaji, Hyogo

 築20年、築70年、築年数不明の建物がひと連なりになっている民家を飲食・物販店に改装した計画。敷地調査の過程で、建物は増築、減築、改築が繰り返され、西側にいくにつれて築年数が古くなっており、一棟のなかにマテリアルの経年変化の時間軸が存在することに気が付いた。その連続的風景を継承するために、かつての生活を象徴する古いマテリアルの断片を部分的に残しながら、それらの接続詞となるような幾つかのマテリアルを線状に配置した。入口の青玉砂利から始まり、奥庭の土壁に到るまで、「人為的な」素材から「自然的な」素材に徐々に移行するようにマテリアルをプロットし、民家の経年変化の空間性を継承する風景の軸を設計した。


 最も築年数の古い西側の部屋の鍵は紛失されていたため、立ち入るためには内壁を壊す必要があった。徐々に土壁を壊していくと奥で植物が自生しているのが見えた。上の写真がその時の様子である。根元には枯れた葉が層状に重なっており、人が住んでいない間も数十年ここで生命を循環させていた歴史があった。この風景を見たとき出来るだけ現状を保存しながら、ここを象徴的な空間にしたいと思った。
 工事過程の環境の変化に耐えられず元の植物は枯れてしまったが、再び芽吹いてこれるように土はそのまま残し、天窓を開け、空と大地を接続させた。空間の成り行きを自然界に委ねた。植物と石の配置は人為的な作り込みを避け、変化していける余白を残している。これから数十年かけて土壁は徐々に剥がれて土と同化し、植物は生命を循環させ、石はゆっくりと風化する。人智を超えた自然界の速度で在るべき姿に還っていくことを願っている。